タツマとは猟犬をつかう巻き狩り猟で、射手が獲物を待っている場所、または人のことを指します。猟犬をつかい獲物を追い込む人を勢子(セコ)といい、グループ猟は成り立っています。山に多くの人が同時に入る巻き狩り猟では、予想外の出来事も発生します。そうならないためにヒントをご提供いたします。

  • 狩猟失敗あるある
  • タツマでの準備
  • もし道に迷ってしまったら
  • クマに遭遇したら
  • 山で熱中症になったら

狩猟失敗談あるある

狩猟は、自然の中で予想外の出来事がつきもの。これらの失敗談も、後から笑い話になったり、次への教訓になったりするんですよね。逆に、そんな失敗を乗り越えて獲れた時の喜びはひとしお、というのも「あるある」かもしれません!

最高の獲物を逃す、その瞬間

まさかの弾切れ: 目の前に大物!と興奮して狙いを定めたら、いざという時に「カチャ…」と空撃ち。さっき装弾したつもりが、一発も入ってなかった時の絶望感と言ったら。

木の上で滑ってド派手に転倒: あと数メートルで獲物という時、足元の落ち葉でツルッと滑り、派手に転倒。銃を構えるどころか、身体中が痛い上に獲物は一目散に逃走。

スコープキャップ外し忘れ: 獲物確認、呼吸を整え、引き金に指をかけた瞬間、視界が真っ暗。「あれ?」と思ったら、スコープのレンズキャップを外し忘れていた。時すでに遅し。

まさかの照準器外し忘れ: ドットサイトやスコープを外して持ち運んだ後、装着したものの電源を入れ忘れたり、ゼロインがズレていたり。いざという時に全く当たらない!

勘違いと誤算の連続

「あと少し」詐欺: 仲間から無線で「獲物、あとちょっとでそっち行くぞ!」と言われたのに、待てども待てども来ず。後で聞いたら、全く違う方向に走って行ったらしい。

獲物と見間違えたもの: ブッシュの向こうに黒い影!と息をひそめて構えたら、ただの切り株だったり、他の猟師の背中だったり。心臓が飛び出るほど焦る。

風向き、読み違えました: 獲物の気配を感じて静かに接近したつもりが、わずかな風向きの変化で匂いを嗅ぎつけられ、あっという間に逃げられる。あの時の悔しさたるや。

装備と体力の試練

地図とコンパスの罠: 完璧な準備だと思ったのに、山中で地図とコンパスが全く読めなくなり、プチ遭難。結局、獣道に沿って下りていったら、全く違う集落に出てしまった。

最新装備の限界: 「これがあれば大丈夫!」と意気込んで最新のウェアを着て行ったら、思いのほか蒸れて汗だく。結局、昔ながらのゴアテックスが一番だと再認識する。

体力過信: 「このくらいの山なら楽勝」と軽い気持ちで入山したら、想像以上の急登と藪漕ぎで、足はガクガク、息はゼーゼー。猟どころじゃなくなる。

まさかの珍プレー

無線、入りまーす!: 獲物が接近し、緊張感が高まる中、仲間からの無線で「あれ北ってどっちだっけ?」と間の抜けた声。その瞬間に獲物は逃走。勢子は激怒!!

猟犬との共同作業(?): 獲物を追い詰めた猟犬が、なぜかそのまま獲物と一緒に崖を駆け下りていってしまい、取り残された人間。

忘れ物番長: 山に入ってから、銃カバー・椅子を忘れたことに気づいたり、ナイフがないことに気づいたり。その都度、引き返すか、諦めるかの選択を迫られる。

「タツマ」での準備

タツマは、獲物を待ち伏せるための場所であり、狩猟の成否を左右する重要な要素です。入念な準備が求められます。
以下に、タツマでの準備のポイントをまとめました。
タツマでの準備は、獲物との出会いを増やすだけでなく、安全に狩猟を行うためにも非常に重要です。周到な準備と忍耐が、成功への鍵となります。

タツマへの移動中の注意

静かに移動  獲物に気付かれないよう、足音を立てず、物音を最小限に抑えて移動する。
風向きの確認 常に風向きを意識し、自分の匂いが獲物の方へ流れないようにする。
痕跡の確認  移動中も獲物の足跡、糞、食痕などを注意深く観察し、タツマの選定に役立てる。
安全確認   周囲の状況(他のハンターの有無、民家の位置など)を常に確認し、安全に配慮する。

タツマに到着してからの準備 タツマの最終選定と設置

隠蔽性   : 獲物から見えにくい場所を選ぶ。木の陰、茂みの中、地形の窪みなどを利用する。
視界の確保 獲物が現れるであろう方向への視界を確保する。木の枝や草などを整理して、射線が通るようにする。
風向き   自分の匂いが獲物に届かない風下を選ぶ。
足場の確保 安定した足場を確保し、銃を構えやすい姿勢が取れるようにする。
安全な射撃方向の確認: 射撃方向の先に民家や道路、他のハンターがいないか、バックストップ(弾が止まる場所)があるかを確認する。

待ち伏せの準備:

座る場所の確保:長時間座っていても疲れないよう、座布団や簡易椅子を設置する。
銃の準備   安全装置をかけた状態で、すぐに構えられる位置に置く。スコープの調整も行う。
防寒対策   長時間動かないため、体が冷えやすい。追加の防寒具を身につける。
匂い対策   :防臭スプレーを使用したり、タバコや強い香りのものを避ける。
静寂の維持   無駄な音を立てず、静かに獲物を待つ。携帯電話の通知音などもオフにする。

もし道に迷ってしまったら

山での遭難は、命に関わる問題です。以下の対策を頭に入れておくことで、いざという時に冷静に対処し、無事に生還する確率を大きく高めることができます。楽しい山歩きのためにも、事前の準備と心構えを怠らないようにしましょう。

立ち止まる(STOPの原則)

道に迷ったと気づいたら、すぐに立ち止まりましょう。焦って行動すると、さらに状況を悪化させることが多いです。
S (Stop)   立ち止まる
T (Think)  考える
O (Observe) 観察する
P (Plan)   計画を立てる

冷静に状況を把握する

迷った場所を特定する: 最後に「ここで道が合っていた」と確信できた場所まで戻ることを検討しましょう。
時間を確認する   日没までどれくらいの時間があるか把握し、焦らず行動する目安にします。
地図とコンパスで確認:周囲の地形と地図を照らし合わせ、方角や特徴的な場所から現在地を特定できないか試みます。
足跡やマーキングを探す来た道に引き返す手がかりがないか探します。

動くべきか、留まるべきか判断する

戻れる確信があれば引き返す最後に確信できた場所まで戻るのが一番安全です。
確信が持てなければ動かない 無理に道を探して進むと、さらに深みにハマる可能性があります。特に天候が悪化したり、日が暮れかかっている場合は、その場で留まることを検討しましょう。

助けを求める行動

大きな音を出す   : ホイッスルを定期的に鳴らす(例えば、3回鳴らして少し休み、また3回鳴らすなど)。声よりも遠くに届き、体力の消耗も抑えられます。
目立つ場所へ移動する: 視界が開けている場所、谷筋で沢の音が聞こえる場所など、救助隊に発見されやすい場所に移動します。ただし、危険な場所へ無理に移動するのは避けましょう。
携帯電話の電波確認: 電波が入る場合は、すぐに警察(110番)や消防(119番)、または家族・友人へ連絡し、状況と現在地を伝えます。充電を温存するため、用件が済んだら電源を切っておきましょう。

SOS信号

音でのSOS : 3回の音(ホイッスルなど)を合図とし、しばらく間隔を空けて繰り返します。
光でのSOS : ヘッドライトなどで3回点滅を繰り返し、しばらく間隔を空けて繰り返します。
目印    : 視認しやすい場所に目立つものを置く、石でSOSと書くなども有効です。

ビバーク(野営)も視野にいれる

夜間になり、救助を待つ場合は、安全な場所でビバーク(不時野営)の準備をします。
風雨を避けられる場所: 大きな岩の下や木立の中など、風雨をしのげる場所を選びます。ただし、落石や増水の危険がないか確認しましょう。
防寒対策: エマージェンシーシートなどで体温を保ちます。重ね着をしたり、体を動かして血行を良くしたりしましょう。
体力温存: 無駄な動きを避け、体力を温存します。

クマに遭遇したら

熊との遭遇は稀なことですが、万が一に備えて正しい知識を持つことが、自分自身と同行者の安全を守ることに繋がります。入山する際は、常に周囲の状況に気を配り、もしもの時の対処法を頭に入れておくようにしましょう。

  1. 慌てずに落ち着く
    熊に気づかれても、慌てて走って逃げたり、大声を出したりするのは逆効果です。熊を刺激しないよう、冷静に行動しましょう。
  2. 静かに後ずさりする
    熊に背中を見せずに、ゆっくりと後ずさりして距離を取ります。熊の目を見つめ続けるのも避けましょう。
  3. 体を大きく見せる
    両腕を広げたり、リュックを頭上に持ち上げたりして、自分の体を大きく見せます。熊は自分より大きなものを警戒する傾向があります。
  4. 熊スプレー(ベアスプレー)を使う準備をする
    もし熊スプレーを持っているのであれば、すぐに取り出せるように準備します。実際に使用するのは、熊が突進してきたなど、身の危険が迫った場合に限ります。風向きを考慮し、熊の顔めがけて噴射します。
  5. 死んだふりはしない(子連れの熊には特に注意)
    一般的に「死んだふり」は効果がないとされています。特に子連れの熊(母熊)は非常に警戒心が強く、子を守るために攻撃的になる可能性が高いです。母熊と子の間に割り込んだりしないよう、細心の注意を払いましょう。
  6. 突進してきた場合
    熊が突進してきても、必ずしも攻撃が目的とは限りません。威嚇行動の場合もあります。

最終手段として抵抗する: 熊スプレーが効かない、または持っていない場合で、攻撃された際は、頭や首などの急所を守りながら、持っているもので抵抗するしかありません。

まずは山に入る前に熊などの出没情報を集めておきましょう。

山で熱中症になったら

山での熱中症は、平地以上に危険度が増します。周囲に助けを求めにくい状況や、医療機関までの距離があるため、一刻も早い適切な対処が命を救います。山での熱中症は、あっという間に命に関わる事態に発展します。異変を感じたら「まだ大丈夫」と過信せず、早期の対処を心がけてください。もしも山で熱中症になってしまったら、以下の手順で冷静に対応しましょう。

  1. 異変を感じたらすぐに休憩・行動中断
    「あれ?おかしいな」と感じたら、無理をせず、すぐに足を止めてください。
    初期症状: めまい、立ちくらみ、筋肉のけいれん、大量の汗、頭痛、吐き気、だるさなど。
    これらの症状は熱中症の初期サインです。まだ動けるからと無理を続けると、急速に悪化する可能性があります。
  2. 安全な場所へ移動し体を冷やす
    木陰や風通しの良い場所など、日差しを避けられる場所へ移動します。
    衣服を緩める: 体から熱を逃がすため、衣服を緩めたり脱いだりして、風通しを良くします。

体を冷やす:
露出した皮膚(首筋、脇の下、足の付け根など太い血管が通っている場所)に、水筒の水や濡らしたタオルを当てて冷やします。
保冷剤や冷却シートがあれば活用しましょう。
沢が近ければ、足などを浸して冷やすのも有効ですが、無理に危険な場所へ行かないこと。

  1. 水分・塩分を補給する
    意識がはっきりしていて、自分で飲めるようであれば、水分と塩分を補給します。スポーツドリンク: 塩分と糖分がバランス良く含まれており、熱中症対策に最適です。
    経口補水液: より症状が進んでいる場合に有効です。
    水と塩分: スポーツドリンクがない場合は、水と塩タブレット、または塩分を含んだ行動食などを一緒に摂りましょう。
    注意: 意識がない、または吐き気がある場合は、無理に飲ませないでください。誤嚥の危険があります。
  2. 周囲に助けを求める(同行者がいる場合)
    症状の観察: 同行者がいる場合は、症状の変化を注意深く観察してもらいましょう。特に意識レベルの変化(呼びかけに反応しないなど)は危険なサインです。
    情報共有: 状況と現在地を共有し、今後の行動を相談します。
  3. 助けを呼ぶ・救助要請(症状が重い場合)
    以下の症状が見られる場合は、重度の熱中症(熱射病)の可能性があり、命に関わります。緊急性の高い状態です。

・意識がない、または朦朧としている。
・自分で水を飲めない。
・全身のけいれんがある。
・体温が非常に高い(触ると熱い)。
・吐き気や嘔吐がひどい。

このような場合は、速やかに救助を要請してください。
携帯電話: 電波が入る場所であれば、110番(警察)または119番(消防)へ電話します。現在地(緯度経度、山の名前、登山ルート、目印など)を正確に伝えてください。
ホイッスル: 定期的にホイッスルを鳴らし、自分の位置を知らせます。
持続的な冷却: 救助が来るまで、できる限りの方法で体を冷やし続けます。

  1. 予防が最も重要
    熱中症は予防が可能です。山行前、山行中は以下の点に注意しましょう。
    十分な水分補給: こまめに、喉が渇く前に水分を摂りましょう。
    塩分補給: スポーツドリンクや塩タブレットなどで塩分も補給します。
    無理のない計画: 体力や経験、天候を考慮した無理のない登山計画を立てましょう。
    休憩をこまめに: 疲労を感じる前に休憩を取りましょう。
    通気性の良い服装: 速乾性のある素材や、通気性の良いウェアを選びましょう。
    帽子の着用: 日差しから頭部を守りましょう。